Paper:Earthquake Swarms in Japan

福岡教育大学紀要，第49号，第3分冊，25-35(2000)より転載

日本の群発地震のデータベースについて

福岡教育大学地学教室三浪俊夫
日新館高等学校山﨑義典
京都大学大学院理学研究科尾池和夫

（1999年 9月10日受理）

ＯｎＤａｔａｂａｓｅｏｆＥａｒｔｈｑｕａｋｅＳｗａｒｍｓｉｎＪａｐａｎ

Toshio MITSUNAMI
Department of Earth Sciences and Astronomy,
Fukuoka University of Education

Yoshinori YAMASAKI
Nissinkan High School

Kazuo OIKE
Graduate School of Science, Kyoto University

（Received September 10,1999）

Abstract

　　This study is preparation of the database of earthquake swarms occurred from 1885 to 1995 in and near Japan. The informations of activities of earthquake swarmes are collected from past many earthquake investigation reports.
　　We input these materials by the fixed data format and design to be utilized effectively for investigations of earthquake swarms. As a result of analysis using this database, we obtained some characterristics of earthquke swarms occurred in and near Japan.
　　This database can be made use of to know the characterristics of earthquake swarms of every district, and it is expected to make use of it to predict the activity of earthquake swarm.

１．序論

　地震活動形式の一つとして群発地震がある。本震といえるような特に大きな地震を含まないで、活動が時間・空間的に集中して発生する地震群を指している。群発地震は、地震規模がそれほど大きくなくても、くりかえし有感地震や鳴動を伴う場合が多く、人々を不安にさせ、局所的には小被害を起こすこともある。
　しかし、余震を多く伴う本震－余震型や前震－本震－余震型と群発地震との区別は必ずしも明瞭ではない。また、群発地震の原因に関しても、内陸の浅い所で起き、火山の周辺で発生する傾向が大きいにもかかわらず、必ずしも火山活動だけではその発生を説明できない。
　今回、群発地震の時間・空間的な分布や活動形式、あるいはその発生原因を検討するため、過去に発生した群発地震と思われる地震の資料収集を行った。また、これらの資料が群発地震研究の基礎資料として有効かつ迅速に利用できるように、資料のデータベース化を行った。さらに、これらの資料解析により得られた日本付近の群発地震活動のいくつかの特徴について報告する。

２．群発地震資料の選定

　地震活動が群発型かどうかを判定するためには、時間的・空間的に発生する地震数にある一定の基準を設定する必要がある。もし、この基準が決められれば、気象庁の震源ファイルなどのデータを用いて、一定の基準に従って群発地震群を抽出することも可能である。しかし、一般に群発地震といわれている活動もひとつひとつ異なった活動パターンを示すため、地震群を抽出する共通の基準といったものは簡単には決められない（例えば、　MOGI,1963、尾池,1980、植木ほか,1980、田中,1984）。
　群発活動は微小地震であることが多く、過去に遡って長期間の均質な観測データが揃っている訳ではなく、また、地域によっても観測データに違いがある。このような状況のもとでは、震源ファイルだけによって群発地震を選定することは極めて困難である。
　日本では、明治17年(1884年)に内務省地理局に［地震部」が設けられ、地震報告心得を制定して、日本全国におよぶ組織的な地震調査が開始された。これ以降、日本全国の地震活動に関する多くの報告や調査資料が文献として残されてきた。これらの文献や資料は、群発地震研究グループのメンバーによって各地方ごとに収集が進められてきた（久保寺, 1979、植木・高木,1989、尾池ほか,1989、本谷,1990、尾池,1993、三浪ほか,1994）。
　今回収集された文献や資料の再検討を行い、群発地震に関係すると思われるものを抜粋し、一定のフォーマットにしたがって、群発地震資料の作成を行うことにした。
　資料作成に際して大切なことは、どのような地震活動を「群発地震」とみなし、ピックアップするかということである。地震活動の報告や調査資料を作成した担当者（観測者）は、群発地震やそれと類似した現象については、『群発』、『群発的』、『頻発』、『多発』、『連発』、『続発』、『集中』、『地震増加』、『活動が活発』などの語句や、これらを組み合わせた『短期集中多発型の活動』などの表現でその特徴を記載している。したがって、文献中にこれらの語句を用いて地震活動を説明しているものは、全て群発地震資料として選択することとする。
　また、「鳴動」、「地鳴り」も地震として扱うことにする。これらが地面の振動現象であり、その多くが地震に伴うものと考えられるからである。しかし、火山活動の鳴動は、火山性地震によるものか爆発音なのかの区別はできない。
　このようにして群発地震と思われるものを選択したとしても、その地震群を時間的・空間的に１つの地震群として扱えるかどうかは不明である。例えば、長期間にわたってバースト的に地震が発生したとき、どれくらいの時間のずれがあれば別の地震群と区別するのか、また、地震群が時間的に重なって発生したとき、発生場所がどのくらい離れていればそれぞれを別の地震群と区別するのかなど、群発地震の定義や基準が決められていないと判定のできない場合もある。
　今回の資料作成では、時間的には連続的に発生している期間を1つの地震群として扱い、細切れな活動であってもそれぞれを別々の活動として扱うこととした。また、空間的な区別は、基本的に元の資料や文献の取扱いに準じて扱うこととした。複数の文献によって取扱いが異なるような場合には、細かく区別しているものに準拠した。
　なお、歴史史料には被害地震や火山活動と同様に、多くの有感地震が起こったことや鳴動などがあったことの記録などが残されているので、これらを丹念に調査すれば、1884年以前についても同様な群発地震の資料収集は可能であるが、今回は1885年以降についてのみ資料作成を行った。また、1995年 1月17日に「兵庫県南部地震」が発生し、これ以降の地震活動に関する文献は膨大な数に達している。このため、今回の資料整理はこの地震を一つの区切りとし、1885年～1995年1月までの約 111年間とした。
　全入力データの年別データ件数を Fig.1 に示す。 1885年に地震報告心得が定められたとはいえ、当初は報告も充分なものではなく、観測体制が整備されるにつれて全国的に報告数も増えてくる。このため1910年頃までは一定の割合で群発地震数が増加している。1935～1950年にかけては戦争の影響により観測体制が悪化し、文献や地震報告件数が減少する。
　1970年代に入ると地震予知計画による微小地震観測網が展開されはじめ、検知される地震数が急増する。「地震予知連絡会会報」に報告される微小地震群の件数は増加の一途を辿っている。
　このようにデータの入力件数は、元になる文献の種類や量、さらには観測体制の影響を受けている。Fig.1 が群発地震そのものの発生回数の変動を表していると見ることはできない。
　今回の群発地震の資料収集に用いた主な文献の一覧を Table 1 にまとめてある。

Fig.1 　Change of yearly number of data.
Table 1　List of principal references and data periods

３．データベースの内容と書式

　データベースの内容は、群発地震の活動期間、場所、最大地震の規模、最大震度、地震数などの項目は固定長形式で入力している。活動状況や群発地震に伴う現象や被害に関する記事・報告や資料の出典などは可変長形式で入力している。
　ここで固定長形式とは、データの記載位置(行，カラム)が決められているもので、可変長形式とは、先頭と末尾に約束された記号を用いれば、その間は自由にデータを入力できる形式を意味している。これはテキスト形式のデータの利用形態に融通性をもたせ、各種のデータベースソフトに対応するために配慮して設定したものである。
　各項目ごとのデータの入力方針は次の通りである。また、項目を特定するに足る資料がない場合、その項目にデータは入力されず空欄となっている。

・活動期間（開始、終息年月日）
　基本的には地震が連続的に発生している期間を活動期間とする。文献によって活動期間の解釈に違いがある場合は、文献の中で最も早いもの、遅いものをそれぞれ開始、終息年月日として採用した。各文献に記載されている活動期間は、うしろの記事欄に入力する。
　一日で活動が終わったものは、開始年月日だけを記載し、また、いつまで活動が続いたかわからないものについては開始年月日の後に「－」を付け、終息年月日は入力しない。

・場所（地方名、活動域）
　地方名は、北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州の８つに分類し、活動域が複数の県にまたがるときは「・」で区切って、いずれの県名も入力する。活動域は、群発地震の発生した場所で、資料や文献に出てくる地域名、現在の地名などを入力する。地名としては、できるだけ場所を特定しやすいように、市・町・村名、もしくは山や島名などを使うことにする。全角文字22字以内で入力する。同じ群発地震でも文献により異なった地名が用いられている場合には、記事欄にその地名を入力する。
　活動域の座標は、群発地震の中の最大地震の緯度・経度を入力する。このデータがない場合は、検索のための目安として、群発地震の起こったと思われる場所の座標を地図上で読み取り、その値を入力する。場所を特定できない場合は入力しない。

・地震活動（最大マグニチュード、最大震度、地震数、日数、主な地震）
　最大のマグニチュード（Ｍmax）は、群発期間中の最も大きい地震のMを入力する。各文献によってこれが異なる場合は、できるだけ気象庁によるものを採用する。
　最大震度（Ｉmax）は、場所や地震にこだわらず、群発活動中に記録された最も大きい震度を入力する。
　地震数（Ｎ）は、各文献に記載されている中で最大の地震数を入力する。したがって有感地震の数であったり、微小地震まで含んだ数であったりする。有感地震の場合は「＊」をつけて区別する。しかし、1900年以前は地震計による観測がないので、すべて有感地震と考えられるが「＊」は付けていない。
　また、文献中に地震数が明示されていない場合でも、内容からある程度推定できるときには「（20）」のように括弧付けで入力している。この場合の有効数字は１桁程度である。
　日数（Ｄ）は、活動の開始、終息年月日から求められる最長の日数を入力する。１日以内に活動が終わった場合は「1」であるが、活動が前日の24時直前から始まり、0時過ぎに終息した場合には「2」になる。
　群発活動の中の主な地震を発生時刻順に入力し、最大地震には目印として「＊」を付す。

・記事（活動状況、現象、被害など）
　地震回数や活動の特徴などをできるだけ詳しく入力する。群発活動の基本的な事項については、文献どうしで重複したり、解釈が違ったりしている場合でも、その記事を入力する。
　記事の先頭は、文献ごとに「◇」で始める。群発地震の活動状況、群発地震にともなう現象、被害などの特徴を記載する。記事の最後には、文献番号を「［3］」のように記入し、文献欄の番号と対応させる。
　また、群発地震に松代群発地震などのように固有の名称が使われているものについては「【松代群発地震】」のように入力する。

・文献
　資料として用いた文献は、データベースの利用者が原典を確実に参照できるようにその出典を明らかにし、記事の内容と対応させて番号順に入力する。番号、著者名、発行年、題目、文献名（または出版社など）、巻(号)、ぺージの順に「，」で区切って入力する。データベースのテキスト形式ファイルのフォーマットを Fig.2 に示してある。一例として、1946年12月に熊本市付近に発生した群発地震活動をFig.3 に示す。

Fig.2　Text type format of the database of earthquake swarms.
Fig.3　An Example of text type data base. This example is the earthquake swarm occurred near Kumamoto city in December, 1946.

４．データベースからみた日本の群発活動の特性

　今回作成したデータベースは、1885年～1995年に発生した群発地震についてであり、全入力件数は 3,157件である。ここではデータベースの固定長形式の入力項目に基づいていくつかの解析を行い、日本付近の群発地震活動の特徴について述べる。

・地方ごとの発生割合
　群発地震の地方ごとの発生割合を示したものが Fig.4である。関東地方、九州地方ではそれぞれ25％で、この 2地方で全国の半数占めることになる。これに対して四国、中国、近畿地方での割合は少なく、これらを合わせても全国の１割にしかすぎない。この理由は前の 2地方には活動的な火山が多く、後ろの 3地方では火山が少ないことで説明できる。なお、関東地方には伊豆・小笠原諸島などが含まれている。

Fig.4　Pie Chart for the focal districts of earthquake swarms.

・活動域の空間的分布
　群発地震の活動域の座標(緯度、経度)が特定できるものは2,661件である。活動域の空間的分布を詳しく調べるため、この中からさらに発生した地震数が10個以上のものを選ぶ。この条件に合う 814件を地図上にプロットしたものが Fig.5である。現在の感覚からすれば、地震数が10個では少ないように思えるが、最近のように地震観測網が整備される以前の文献では、有感地震の数だけが報告されているものも多く、無感まで含んだ実際の地震数はもっと多いはずである。
　群発地震は、北海道南部、青森県西部、福島県－栃木県北部、長野県－岐阜県北部、伊豆半島－三宅島、九州中部の各地域で集中的に発生していることがよくわかる。これらはいずれも活発な火山地域と一致しているが、それ以外にも、三陸沖－茨城県沖－千葉県沖に発生するものがある。これら海溝沿いに発生する群発地震は、内陸の火山地域に発生するものに比べ地震の規模（Ｍ）が大きい。
　このような群発地震の地理的分布の基本的な特徴は、すでに MOGI(1963）などで指摘されているが、今回作成した分布図ではプロットされている地震群の数は 814個と多く、特に内陸部の群発活動の集中域が明瞭に捉えられている。

Fig.5　Space distribution of earthquake swarms with 10 shocks and over.

・発生する地震数
　１つの群発活動で発生した地震数（Ｎ）がわかっているものが、1494件ある。発生地震数の頻度分布を Fig.6 に示す。横軸（地震数）は対数目盛でとってある。地震数が 10回の242件をピークに、地震数 1,000回まではグラフ上でほぼ直線的に減少している。1,000回を越えるものは全体の約 3％である。
　地震数が 2回だけのものもあり、これが群発地震として適切かどうかは議論のわかれるところである。地震計による観測網が現在のように整備されていない時代には、群発活動であっても有感地震や１観測点で験測された地震だけを地震回数と記録しているものもあり、地震数が 2回だけであってもこれを群発活動から除外することは適当ではない。
　Fig.7は、群発活動中の最大地震のマグニチュード（Ｍmax）と地震数（Ｎ）の関係を示している。ＭmaxとＮ間に一義的な関係は見いだせないが、Ｍmaxが 4程度までは、発生する地震数の限度が設定できる。Ｍmax 1程度では数十回、Ｍmax 2では数百回、Ｍmax 3では数千回の地震が発生する可能性がある。しかし、観測できる地震数は観測網の検知能力と関係しているので、数をかぞえる地震に何らかの基準を設定する必要がある。

Fig.6　Histogram of the number of shocks occurred in the swarm.
Fig.7　Relation between the agnitude of the largest event and the number of shocks occurred in the swarm.

・継続期間
　群発活動の継続期間（Ｄ,日数）を特定できるものは 1,285件ある。このうち継続日数100日までの頻度分布を Fig.8 に示してある。この分布は余震回数の減衰と同じ傾向を示している。
　期間が１日だけのものは 332件である。10日以下のものは 899件で、全体のほぼ 7割である。総じて活動期間は１か月以下である。ただし、100日を越えるものは図に示していないが、最大で 1,000日（約 3年）を越えるものもある。
　Fig.9は、群発活動中の最大地震のマグニチュード（Ｍmax）と継続期間（Ｄ）の関係を示したものである。ＭmaxとＤの間に一義的な関係は見いだせないが、先のＭ－Ｎの関係と同様に、Ｍmax 4程度までは継続期間の限界を設定できる。
　Ｍmax 2の地震では約 15日間、Ｍmax 3では約100日間が最大継続期間で、通常はこれ以下で群発活動は終息することになる。Ｍmaxの大きな地震でも1,000日を越えて継続する活動はまれである。

Fig.8　Histogram of the duration of earthquake swarms.
Fig.9　Relation between the magnitude of the largest event and the duration of earhtquake swarms.

５．まとめ

　1885年から1995年までの群発地震と考えられる活動を、過去の地震報告や調査資料などの文献から抜粋して資料整理を行った。これらの資料が群発地震の研究に有効かつ迅速に利用されるように、一定のフォーマットにしたがって記載し、データベース化を行った。さらにこのデータベースを用いて解析を行い、日本付近の群発地震活動についていくつかの特徴を捉えることができた。
　今回作成されたデータベースが、地域ごとの群発活動の特性や活動予測などに活用されることが期待される。

謝辞

　群発地震のデータベースの資料収集にあたっては、気象庁、大学、その他の研究機関の地震観測者の方々から群発地震に関する多くの情報を提供していただきました。また、群発地震研究グループの方々からは、各地方の資料を提供していただきました。資料収集に御協力いただいた皆様に厚くお礼申し上げます。

参考文献

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