「俳句界」　１９９９年６月号 

　　　　　尾池和夫 （氷室）

 　朝寝

菜の花や断層崖を際立たせ
教授会終へて落第生と会ふ
週末の手話のニュースの花便 
夢はやや長編となる朝寝かな 
想ふことありと言ひつつ花の山
友の墓尋ね来たれば花の寺 
らくがんの木型の花や花の寺 
行く春の形見と思ふ花の蘂


エッセイ

 　「役に立つ」 
　
　虚学と実学という言葉がある。私の専門は地震学だが、地震の起こる仕組みを研究していて、
それが何の役に立つかというようなことは考えていない。しかし多くの人は、地震学者は当然、
震災を軽減するために研究すると思っているようだ。
　地震の話を聞きたいと頼まれて、私にできるのは自然現象の話である。住民の皆が「ここにも
地震が起こる」と理解することから、その町の震災対策が始まるのだから、私の話も少しは役に
立つだろうと思って話す。でも終わったあと、やはり本当に役に立ったのだろうかと考えながら
帰途につく。