大学の総長という仕事は、一日中こまぎれで、議長か打ち合わせ、決済か指示、インタビューか
原稿書き、表敬訪問のご挨拶か当方からの挨拶、苦情か陳情の相手、式辞か祝辞というような具合
で、毎日が終わる。
　旅行も多く東京での会が多い。会議のはしごをして移動中、ふと一句できると、携帯電話から自
分宛にメールを送る。帰って検索用のデータ集に入れておく。うまく整理できるよう変換プログラ
ムが作ってあるので、時間はかからない。それを検索して最近の旅行中の句を並べると、句として
の価値は別として、自分にとっては旅行と行事の記録になっていて楽しい。

　旅中　　　尾池和夫

要石の効き確かめる二日かな
大根をぱきつと折つて味見する
人間も熊も鯨も春を待つ
出番待つ鬼のつぶやく寒さかな
磯こじき春の汀に野帳持つ
恋猫よここは井伊家の屋敷蹟
リサールの銅像若し春の雪
犬と人駈け下りて行く春の坂
一枚の踏絵オペラの「沈黙」に
春の宴我が名間違へられてをり
霾や木乃伊は何故か美女ばかり
隣席へ地震講釈木の芽和


　　　「氷室」　おいけかずお　昭和１５年５月３１日生
　　　句集「大地」、著書「俳景」「日本地震列島」ほか