今年も、平安神宮の紅枝垂がみごとな花をつけて、細長い枝を風にまかせていた。花をつけた枝
のいくつかは、その先端が大地に達していた。
「古都」は、人それぞれの読み方のできる小説である。私の場合は、京都という都市と北山の名所
案内書であり、京都の行事の案内書であると、今では思って読んでいるが、初めて読んだときには
「古都」に登場する姉妹の姿を思い描きながら読んだ。
　この小説が新潮文庫の一冊として発行されたのは、私が大学を卒業し、研究者としての道を選ん
で数年の頃で、ようやく京都の町を歩いてみようと思い始めた頃であった。町中でふと出会う京こ
とばのひびきが、「古都」の姉妹の声に重なって聞こえた。
　今では、「古都」の姉妹は、また会いたいなと思うくらいの位置づけになり、「古都」の風景を中
心に読むようになった。この小説が生れて半世紀近くたった今、「古都」の桜が同じように咲いてい
るのを確かめ、瓢正の笹巻きずしを味わって帰るというような読み方になった。
　姉妹の役は、山口百恵はじめ歴代の多くの女優さんたちが演じた。今年は上戸彩の主演でハイビ
ジョンのテレビドラマになった。「古都」を読み返すたびに新たな感銘を私が受けると同じように、
映画やテレビの画面でも、そのたびに姿を変えて「古都」が描き分けられてきた。