急性心筋梗塞

　　　　尾池和夫

　休日　六月七日（日）

　よく眠れなかった。朝食のあと、また脈が、昨日ほどではないが少し乱れる。
看護婦の田中さんが、
「薬が切れるからかも」
　という。薬で不整脈を抑えているが、一日三回の投薬が、八時、一二時、一八
時という食事の時刻に合わせてあるから、間隔は四時間、六時間、一四時間とい
うことになって、八時間の等間隔とは、ほど遠い。
　今日の担当の看護婦さんは豊岡さんである。たのもしい感じが安心感を与える。
　長男の格が東京から日帰りで見舞いに来てくれた。
「万一のことがあったとき、しまったということになるかもしれないから、一度
見舞いに帰った方がいい」
　と、わたしは伝言を頼んでおいたのだが、
「お父さんが、えらく気弱なことをいうてるそうで」
　と見舞ってくれる。
　あまり歓迎するきっかけではないが、おかげで久しぶりに家族が集まることに
なって、しばらく話がはずんだ。格は、わたしの誕生日のお祝いに靴を買ってく
れていたという。その箱を持ってきてくれた。京子の万歩計といい、格の靴とい
い、みなわたしが歩くのが好きでいながら、仕事が忙しくて運動不足になってい
るのを心配してくれていたのだ。
　大便が緩くなりすぎたので、酸化マグネシウムを飲むのを中止することにした。
夜勤は宮下さん。たくさんの看護婦さんをみな覚える能力は、わたしにはない。