京都の地球科学（二八五）　　　　2018年1月号

　　　西安への旅（七）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　尾池和夫

　周焱さんの夫が帰国して合流し、北京ダックの店で夕食を楽しみ、その後、夜の劇場へ
案内してくれた。テーブルに料理や酒を並べて観劇するという京劇の新しいスタイルであ
る。周さんの夫は陝西省教育庁の高官で、私が昔から世話になる元陝西省知事の安啓元さ
んもよく知っているという。ホテルに戻ってたくさんの土産の荷造りがたいへんである。。

　　二十四節気発祥の地の芒種かな　　　　　　尾池和夫

　六月七日、早めに出発して空港へ向かう途中、咸阳国際空港専用公路東段に新しくでき
た世界遺産「漢陽陵博物館」を見学した。西安の北西の郊外で飛行場に近い場所にあり、
発掘して出てきた文物が多くある。最近の発掘であるからどれも初めて見るものであり珍
しいものがある。まだまだ出てくるという。発掘現場をそのままの状態で残してあるのも
興味深い。
　西安市北郊外の渭河の北側の台地の上に、初代高祖劉邦の長陵以下、七つの皇帝陵が東
西方向に並んでいる。景帝陽陵はその最も東にある。陵園は帝陵陵園、后陵陵園、南区従
葬坑、北区从葬坑、礼制建築、陪葬墓園、刑徒墓地及び陽陵邑で構成され、二〇〇近い従
葬墓と一万の陪葬墓があり、この中に多くの武士俑と女性俑、豚、馬、牛、羊、鶏、犬等
群れの動物陶製俑などがある。これらの文物は、漢朝宮廷文化と社会の生活を如実に再現
しており、二〇世紀中国に於ける重大な考古学上の発見といわれている。
　漢陽陵考古陳列館は先進的な展示技術を採用し、特に帝陵外葬坑遺跡保護展示室は、世
界的最先端の文物保護と展示理念を採用して作られた全地下遺跡博物館であるという。二
〇〇五年に開かれた国際古跡保護理事会第一五回年会で、世界文物保護と展示の模範と言
われた。
　景帝劉啓は西漢王朝の第四代皇帝である。父、文帝とともに「文景之治」と呼ばれる中
国封建社会初期治国安邦の最盛期を築き、子、武帝劉徹のために十分な経済と軍事基礎を
残したという西漢王朝の発展に重要な役割を果たした帝である。
　この陵園が、一九九〇年代に発掘調査された。二〇〇三年五月一日に「陽陵南闕門遺
址」の展示が行われてこの博物館は開館した。それ以後、展示の規模を広げて現在に至る。
現在は、外藏坑遺址保護展示庁、南闕門遺址保護展示庁、宗廟遺址、考古陳列館から構成
されており、この順で参観するのがいいという。開館時間は、三月から一一月の期間は八
時三〇分から一九時、一二月から二月は八時三〇分から一七時三〇分である。入場料も季
節で異なり、三月から一一月は九〇元、一二月から二月は六五元である。西安市内からの
交通は、市内バスの遊四路、料金は二元で、終点の漢陽陵博物館で下車する。
　南闕門遺址保護展示庁と外藏坑遺址保護展示庁は、文字通り発掘した遺跡をそのまま保
存して展示してある。「漢陽陵国家考古遺址公園」の公式サイトは「http://www.hylae.c
om/」である。発掘の様子は「??陵博物?背后的故事」というウェブサイトに写真とともに
詳しく記録されている。
　南闕門遺址保護展示庁は、皇帝陵封土が高い白い塀で取り囲まれている。東西南北にそ
れぞれ門が設けられているが、南門が正門である。南の入口から入って、西側の遺址へと
行く。赤い柱の間を歩いて外塾と内塾を見る。奥へ延びる主闕台の中央に柱跡の穴がある。
闕台の回りの平面が回廊で、その外側に石を敷き詰めた散水がある。
　外藏坑遺址保護展示庁の外藏は陵の封土の四方に八一座が設置されていた。この展示庁
には、東北の一〇座の外藏坑上に地下の建築物を建設して保護と展示を行っている。二〇
号坑には、陶豚、陶壺、漆木箱の遺址がある。一八号坑には、人俑陶が置かれている。前
漢の人俑は、秦のものに比べると小型であるが、量的には決して劣たないといわれる。裸
であるが、これは衣類が腐食して残っていないからだという。また、復元された車馬の展
示が木車馬遺址にある。木車馬と随う人俑も出土している。
　漢陽博物館は、国家の主要文化遺産の保護単位である。前漢の王朝の皇帝と皇后の陵が
あり、大規模な文化的地点である。現代の技術文明と古代文明、歴史、文化、景観の融合
がそこにあり、博物館の総合面積は中国最大であるという。
　漢陽陵は、紀元前一五三年に建設が始められ、紀元前一二六年に完成した。陵墓の面積
は二〇平方キロメートルでｓる。
　横綱の人形のように見える陪葬坑から出土した兵士俑は、いくら見ていても飽きないよ
うな表情がある。始皇帝の兵馬俑とはまったく異なる様相である。
　陽陵は前漢四代目皇帝である漢景帝と皇后の合葬陵墓であるが、「異穴同葬」と言われ
る形式で、一つの陵墓に合葬するのではなく、別の陵墓を作って埋葬してある。日本でい
う合奏とは異なり、皇后陵は景帝陵と四〇〇メートルほど離れている。
　陵の頂上から南闕門遺址を俯瞰すると、その向こうに、一九九一年に開港した西安咸陽
国際空港への専用道が見える。この道路建設に伴って、この遺跡の存在が確認され、その
後、発掘調査が進んだのだという。

　　古代遺跡の虹のむかうを人歩く　　　　　　今瀬剛一

　西安から関西国際空港へ、MU2059便で一四時一五分発、二一時四五分に到着した。その
経路であるが、西安で荷物を預け、国内便に乗って青島へ行き、そこで出国手続きを行う。
国際線も同じ飛行機である。関西国際空港には大学の細井さんが出迎えてくれた。荷物が
多く遅い到着なのでありがたい。

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