京都の地球科学（二七九）　　　　2017年7月号

　　　西安への旅（一）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　尾池和夫

　久しぶりに西安へ行った。私にとっては通算三三回目の中国への旅である。初めて中国
へ行ったのは一九七四年であった。一九七二年の日中国交正常化の直後、中国科学院の招
待で北京と上海へ行ったが、直行便のないときの香港経由の長旅だった。
　西安に初めて行ったのは、地震学会の代表団の一員としての旅行で、一九七七年五月で
あった。そのとき北京では王震副総理に会った。一九八八年から九〇年にかけては、西安
市内の地割れの調査でたびたび訪問し、郊外に地震計を設置して小さい地震をとらえる観
測も実行し、一五五六年の世界史上最大の震災のあった地域には、今ではまったく小さい
地震も起こっていないということがわかった。そのときの報告書の結論はたいへん短い内
容だった。
　二〇〇六年五月に西安に行ったのは、第四回日中学長会議を西安交通大学で開催するた
めであった。西安交通大学の鄭南寧校長（学長）が歓迎してくれた。中国からは南開大学、
武漢大学、清華大学など多くの学長が参加し、陳徳銘陜西省省長（知事）の招宴もあった。
陳徳銘省長は長安の都の長い歴史と遣唐使のことを話した。私の滞在しているホテルに元
陝西省省長の安啓元さんがわざわざ訪ねてきてくれて夕食をともにした。彼はかつて中国
国家地震局局長をつとめていて、一九七八年には中国東北地区へ一緒に視察旅行をした仲
間であり、日本への視察旅行にも同行したことがある。一九七七年でも一九八八年でも、
中国の広い道には自転車が溢れており、西安の城壁の内外でも自転車がいっぱいであった。

　　西安の夏自転車を溢れしめ　　　　　　　　黛まどか

　さて今回の四泊五日の旅行の初日である。六月三日、早朝六時二〇分に大学の公用車で
細井さんが自宅に来てくれた。関西国際空港まで景色のいい高速道路を一時間二〇分ほど
の旅である。中国東方航空のＭＵ二〇六〇便で、関西国際空港一〇時ちょうど発、青島で
入国、同じ飛行機で西安国際空港へ一五時二〇分着、そこで預けたトランクを受け取って
通関という旅であった。私たち一行は大野木副学長、平井国際部長、尾池葉子と私の四人
であった。
　空港には西安市の周焱さん、瓜生山学園上海事務所の劉昊星さん、一日前に上海に入国
して西安に移動した瓜生山学園理事長の徳山豊さんたちが待っていた。高速道路で一気に
西安市の南のホテルへ向かった。環城南路西段一二号にあるグランドパーク西安（中国名
は「西安君樂城堡酒店」）である。城壁の南側で永寧門が目の前にそびえる部屋である。
　ところで今回私たちが乗った西安直行便は、新しく開設された路線だというが、その便
についての説明がまったく旅行会社から提供されていなくて、たいへんな旅になった。新
しい路線の説明のみならず、普通に必要な中国の入国カードも入れてくれてなくて現地で
調達して記入し、乗る便の時刻表も、青島での入国手続きと国内線への乗り換えの複雑な
経路もまったく不明のままで、現地の中国語での係員の説明だけに頼るという旅行であっ
た。ついでながら、帰りの出国カードも日本への通関の書類も支給されていなかった。ビ
ジネスクラスであるにも関わらず空港のラウンジの案内もなかった。最大手でありながら
こんな不親切な会社には二度と世話になりたくない。
　この新しい路線は二社の航空会社が運航している。今後のためにもくわしく記録してお
きたい。私の乗った中国東方航空が毎日、春秋航空が水曜日の運行である。前者はＭＵ二
〇六〇便、関西国際空港一〇時〇〇分発、西安一五時二〇分着である。春秋航空は関西一
八時五五分発、西安二二時四〇分着である。この便では預けた荷物は西安まで同じ飛行機
で運んでくれる。青島では手荷物もコートも全部持って降りる。現地着の人と一緒に出る
と通路の途中でトランジットのカードを持つ職員が「シーアン、シーアン」と言いながら
立っている。シーアン行と言うとカードを持ってしばらく待てという。私たちの他には団
体が二組だけあり、一組は添乗員が中国語がわかる人でトランジットのカードをもらって
待機したが、もう一つの団体の添乗員はわからずに現地到着の客と一緒に出て行こうとし
た。立っている職員が中国語のわかる添乗員にあっちは大丈夫かと言い、添乗員が走って
もう一組の添乗員に説明して連れ戻してきた。
　そろったところで入国審査の場所へ行って入国カードを記入し、パスポートに押印して
もらって別のルートから国内便の乗り場へ移動した。西安に着くと、大阪からの人はこち
らへと中国語の呼び出しがあり、車で移動して国際線のターミナルへ移動し、そこで預け
た荷物を受け取って通関手続きである。
　西安に到着した日の夜、瓜生山学園西安同窓会の集まりに出席した。朱雀大街中段三八
号にある真愛中国餐館である。私たちを入れて三二名の参加者である。党晨（DANG Shen
g）さんが西安同窓会会長で、京都造形芸術大学最初の中国からの留学生である。前西安
大学（現在の西安文理学院）工芸デザイン学部の創立者であり、現在は西安欧亜学院教授
である。西安同窓会副会長は、空港まで来てくれた周?（ZHOU Yan）さんで、二〇一〇年
に京都造形芸術大学大学院芸術専攻修了で、現在は西北大学の講師をつとめる。西安同窓
会名誉会長は岳鈺（YUE Yu）さんで、京都造形芸術大学最初の中国人留学生の一人であり、
前西北大学教授である。上海事務所の劉昊星さんは、二〇〇七年に京都造形芸術大学大学
院芸術表現専攻を修了した方である。

　　春満月仲麻呂如何杜甫如何　　　　　　　山田みづえ

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