京都の地球科学（二四八）　　　　2014年12月号

　　　中国貴州の地質公園
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　尾池和夫

　中国貴州省は、別の名を金州という。元来は貧しい省であったが、中国政府の政策に
よって、現在は建設と開発が嵐のように押し寄せている。二〇一四年一〇月八日から、
私は貴州省を初めて訪問し、特産の茅台酒にも久しぶりに出会って、しっかりと味わう
ことができた。昔、私が中国に初めて行った一九七四年には、中国の至る所で茅台酒に
よる乾杯が行われていた。そのとき、日中国交回復のニュースとともに、日本人によく
知られる銘酒となっていた。
　茅台酒は高粱を主原料とする貴州省特産の蒸留酒である。中国ではこのような蒸留酒
を白酒と呼ぶ。強い香りが特徴で、飲み干した後も香りを楽しむ。産地は貴州省北西部
仁懐市茅台鎮である。その土地の泉水を配合して醸造し、長期間瓶に密封しておいて蒸
留する。
　この茅台酒は、一九一五年、サンフランシスコ万国博覧会で金賞を受賞した。それが
世界の銘酒と言われるきっかけとなったのだろう。中国では「国酒」と称するようになっ
た。毛沢東がニクソン大統領と乾杯したり、周恩来が田中角栄と乾杯したことがニュー
スになった。最初のアルコール度数は六五パーセントだったというが、私が一九七四年
に初めて中国に行ったときには、五五度だと教えられた。近年は五三度とされている。
健康に良いという人もいる。かつては周恩来が、風邪でも薬を飲まず茅台酒を飲んで治
したと伝えられた。
　産地の茅台では五年の歳月をかけて蒸留されている。古酒もあるという。清代の中期
からの歴史を持ち、ピークには二万石以上の高梁が使われたという。
　茅台鎮は、貴州省の西北にある遵義市から鴨茅公路に沿って西北へ一二〇キロほど行っ
た赤水河畔にある小さな町である。河の西岸に高山が連なる険しい地形の地域で、茅台
鎮は古くからの水陸の交通の要である。赤水河は、夏から秋にかけて濁流が激しく、冬
から春には静かで泳ぐ魚が見えると言われる。茅台酒は、この赤水河の水に育まれた酒
である。茅台鎮は、海抜四〇〇メートルの雲貴高原にあり、気候は温潤で厳冬期でも氷
点下二度くらいである。この気候が特別の微生物に適している。
　茅台酒工場は楊柳湾にあり、明代の焼房という炉が残っている。焼酒作房の略で、こ
の地では五〇〇年前からすでに白酒が醸造されていたことを示している。
　茅台は昔からの塩の集散地であった。自貢の山では二千年前から塩を採っている。地
下一〇〇〇メートルから塩をとる。中国の塩の種類は豊富で、海塩、池塩、井塩、土塩、
崖塩などと分類され、二〇パーセントが海以外からの池塩などである。自貢の地中深く
から汲んだ塩水を精製した塩が純粋で味が良いという。四川の料理人は、海外へ行くと
き、四川の塩を携えて行く。四川省の塩のことを川塩というが、その集散地である茅台
では、商人の往来が多く、やがて裕福になった人たちが美酒を愉しむようになった。茅
台酒はそのころすでに独特の風格を持っていて需要に応えた。当時の赤水河の名物は、
茅台の酒と合江の仏手柑、それに葫蘆渓一帯の冬筍で、河に舟を浮かべて酒をくむ風流
な人がいたという。世界のどこにあっても、大地の生み出す恵みは、その土地の歴史と
ともに、食材と美酒で語られるようになる。

　　馬刺うまか肥後焼酎の冷やうまか　　　　　鷹羽狩行

　近代の中国では、国営の茅台酒廠（工場）が設立され、新しい醸造法が開発されて質
が一定になり、生産量も増えた。
　工程にくわしい人がいて、さらに解説が続く。砕いた高粱と粒のままの高粱を混ぜ合
わせて、一定の温度の水に一定の時間浸し、適量の母糟をくわえてかき混ぜ、瓶に入れ
て蒸したあと、広げて冷やし、穴蔵に入れて一か月発酵させ、瓶で蒸留する。これが第
一回目の蒸留である。一か月たつとまた蒸留し、第二次蒸留でとった酒から必要な分量
だけのこし、酒頭と酒尾はそのまま糟の中へ戻し、引き続き穴蔵で発酵させ、一か月後
にまた蒸留する。これを七回くり返す。鑑定に合格した酒を缸に入れて厳封し、長時間
貯蔵して味と香りがさらにまろやかになってから出荷する。
　中国の大地の地質や地形は、日本と同じように多様であるが日本より規模が大きく、
太古より大陸であった地域もあり、歴史が長い。それだけに珍しいさまざまの地域の特
徴が学べる。

　　中国は五台に学び土用灸　　　　　　　　　有馬朗人

　さて今回の旅の話の続きである。貴州省は中国の西南地区にある。北は四川省で重慶
市に近く、東は湖南省、南は広西チワン族自治区、西は雲南省と接している。隣の雲南
省とともに広い一帯が雲貴高原と呼ばれる標高一〇〇〇メートルの広大な高原である。
気候の温暖な観光地としても、これから売り出そうという計画で、ホテルの建設、高速
道路の建設が行われている。
　北の四川盆地は低い土地で、それに向かって流れる川は、やがて長江に注ぐ。この高
原は、西南の雲南省にある大河、紅水河の上流域でもあり、そちらに向かっても川が流
れているから、貴州省省都の貴陽市や安順市などの中央部は、広大な地域の、いわば分
水嶺と言えるような位置にある。
　今回の訪問は、その貴陽市と安順市を中心に視察する機会を得て、大いに楽しむこと
ができた。この地域の特徴を一言でいうと、中国有数のカルスト地形と言える。南部を
中心に、中国語で峰林、峰叢と呼ばれる、凸型のカルスト地形、つまり尖り山の大群が
展開している。

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